昭和の喫茶店 2軒目
昔ながらの喫茶店で美味しいコーヒーと共に過ごす時間は心温まる。京都市中央市場の界隈は素敵に年を重ねた昭和時代の建物が多く残る。市場に隣接した62番外という古びたビルの中、そこに「2軒目」という風変わりな名前の喫茶店がある。ビルの奥まったところにある穴倉のような店である。お店は高齢の女性店主が一人で切り盛りしている。店内は茶色を基調とした全15席ほどのこじんまりとした空間で、カウンターとテーブル三脚が置かれている。一見するとなんの変哲もない昭和の喫茶店であるが、カウンターの奥に設置された人の半身ほどあるガラス製のコーヒーの抽出器具が印象的だ。そこではコーヒーが絶え間なく一滴一滴と水出しで抽出されている。そのコーヒーはすっきりとした中にもコクがあり美味である。店主は奥ゆかしいが、話してみると茶目っ気のある方で、接客から人となりがじわりと伝わってくる。高度にシステム化されたチェーン店の接客にはない温かみを感じる。昭和の庶民の生活を支えた個人商店が人知れず消えていく平成の終わり、これからもできる限りたくさん足を運びたいものである。
燐寸を通して街を記憶する (たるみ燐寸博物館を訪れたこと)
喫茶店のマッチが好きでマイペースに収集している。昔ながらの喫茶店でお茶をした後は去り際に、お店の人に「お店のマッチはありますか?」と問いかける。打率は3割くらいだろうか。「昔は作っていたんだけど。。。今はライターがあるから」、「最後の1個だからお見せするだけだけど。。。」。広告としてのマッチは徐々に消えつつあるのだろうか。
以前に姫路を旅行した折に兵庫県垂水で途中下車をして、広告マッチの私設博物館である「たるみ燐寸博物館」を訪問した。喫茶店をはじめ様々な業種の広告マッチが展示されていた。 これらはコレクションのほんの一部で収蔵数は10000点を優に超えるとか。滅多にお目にかかれない昭和初期の木製マッチ箱まである。燐寸が好きならいくらでも過ごせると思う。
興味の対象である喫茶店のマッチを中心に、館長さんに解説いただきながら鑑賞した。色形、デザインのバラエティに富んだ様々なマッチが続々と登場する。おおらかな昭和らしく著作権などどこ吹く風のパロディ物に思わず微笑む。アナログで温かく、型にはまらない燐寸のデザインにのびのびとした自由を感じる。
館長さんは燐寸そのものだけでなく、当時の街の景色、お店の雰囲気や歴史なども含めて話をしてくれた。とめどなく流れる時間の中で誰の記憶からも零れ落ちてしまうであろうありふれた街の情景までも丁寧に収集されているような気がした。そんな燐寸を通して街を記憶する姿勢に感銘を受けた。
願わくはマッチ全盛期の昭和に街を駆け回りマッチを思う存分集めてみたかった。